いただきます בתאבון

雨が一日中降り続いた休み明けのイスラエルは,俺の雨季への期待をあざ笑うようにいつも通りの快晴だった.最初は物珍しかった土埃で白っぽい空と太陽に照らされて眩しく光っているアスファルトも,2週間も住んでみれば暑さの象徴にしか思えない.たまの雨を待ち望むようになった俺は,また一つイスラエル人に近づいたような感じがする.

 

俺が新米研究者として赴任してきたここに四季はない.この国の一年は,乾季と雨季にくっきり分かれている.4月から11月の乾季は,その名の通り一滴も雨が降らない.雨季は名前こそ日本の梅雨に対応するものの,それでも一週間に1日か2日程度しか雨が降らないと同僚が話していた.

 

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街外れから隣町の建物が遠くに見える.

  

雨の翌日,俺は研究所で行われたインドのディワーリーというお祭りに参加した.このお祭りは「光の祭典」とも呼ばれ,蝋燭を並べた飾りが闇夜に美しい.俺は飾りの横で花火を楽しんだのち,インド料理を食べながら古典舞踊を鑑賞した.この古典舞踊バーラタナッティアムは型に基づいた踊りだが,手足に加えて視線まで用いた豊かな感情表現に俺は感銘を受けた.

 

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仕出しの北インド料理.そこまで辛くはなく,なかなかおいしかった.

 

食事が終わったのちはボリウッドDJが始まる.テーブルを片づけたホールではミラーボールが回りはじめ,気づけば俺もインド人たちと一緒に踊り狂っていた.息が上がり休んでいると,女子スタッフの学生が俺を家に送っていくという.何度も送ると言われ「これは一緒に帰れば何かあるな」とピンと来た俺は,言われる通り帰ることにした.女子学生は一滴も飲んでいない俺に「お酒飲みすぎたの?」と聞く――よく聞けば,俺のダンスで上気した顔が酒のせいと思い心配していただけだったらしい.そんなわけで俺はパーティーの途中に不本意にも帰宅し,冷たいシャワーで頭を冷やしたのだった.

 

週,研究所のイスラエル人学生たちと近くのバーでビールを飲みに出かけた.学生たちは最初こそ研究の話をしていたものの,お酒が回るにつれてバカ話を始める.俺は学生ではないにもかかわらず端からバカな話しかしていない.俺は日本のお笑いについて解説しようとしたが,漫才におけるツッコミの必要性が全く理解されなかった.あまりにもわからない学生たちが「じゃあ漫才を実演してみてよ」と言う.思い出し思い出し英訳して実演するも,ウケるわけもない.挽回しようと思った俺はディワーリでの失敗談を話して笑いを取り,社会人の面目をなんとか保ったのであった.